気ままな人生、きままな旅

東北山登りツーリング

9月3日

 さて、レース観戦の後、とりあえずは国道4号線を北へと向かった。一昨年は、早池峰(はやちね)山、秋田駒ケ岳、鳥海山、会津磐梯山に登ったので、今回は他の山に登るつもりだ。
 眠くなる前には青森県に入りたい。仙台周辺で渋滞した以外は、順調に進む。一関あたりからは田んぼの向こうに栗駒山が見えるはずだが、今日はあいにくの天気だし、沿道の風景も変わってしまった。
 毛越寺庭園に未練を残しながらも、単調な道を北上していく。盛岡あたりでは、田代平高原、早坂峠、荒川高原あたりに寄っていこうとも思ったが、先を急ぐ。千葉、埼玉を出てしまうとガソリンの値段は一気に10円近く上がり、東北全域でもリッター100円を切ることはまれだった。

 23時頃に十和田市に入り、給油と食事を済ませる。市街地の北の端にある店でラーメンを注文。とんこつ味で、450円。中盛100円増しでものすごい量になった。大盛りとはいったいどれほどの量だろうか。味もよく、満足でした。
 11時半に七戸道の駅に着き、ここで眠ることにする。雨が降り出した。

尻屋崎
尻屋崎
9月4日

 雨はやんだがすっきりしない天候の中、南部縦貫鉄道の痕跡を探した後、小川原湖(おがわばらこ)の南側をまわり太平洋岸に出る。海沿いは多少天候がいいようだ。轟音を残し低空を高速でジェット機が飛んでいく。
 下北半島の太平洋岸ではほとんど砂浜に出ることはできないが、六ヶ所村の浜砂採取場の飯場のアニキに頼んで車を停めさせてもらい、波打ち際まで行った。防風林と浜のあいだは、ほとんどのところで小川によって隔てられているので、靴をぬらさずに行くことはできないだろう。10キロ以上はある砂浜に誰もおらず、何もない。
 おそらく原発関連の予算できれいに整備された道路を快調に進む。尻屋崎(しりやざき)は大きく変わっていた。入り口にあるゲートはオートになり、砂利道も舗装されていたが、それなりに最果てムードは味わえたし、天候もよく北海道も見ることができた。実は俺も、端っこや岬に行きたがる、“先端症候群”をわずらう者なのであった。

 大間崎には行かず、むつを抜け陸奥湾沿いを南下する。
 横浜町の国道沿いにある「白樺」で、帆立ラーメンを食べる。850円。殻付きの大きな帆立が3つ入っている。麺がほぐれていなかったことが残念だが、帆立のスープはうまかった。なぜか周富徳の色紙が飾られていた。彼もここで味わったようだ。
 次は季節を選び、菜の花ラーメンを食べてみたい。

 青森では保存されている青函連絡船「八甲田丸」を見に行った。廃止直前の夏に函館から乗ったことがある。乗船を待つあいだ桟橋で涼んでいた時、誰かが「飛行機が落ちた!」と騒ぎ出し、後になって、御巣鷹山での日航機墜落事件だとわかった。その数日前にこの事故で亡くなられた坂本九さんに層雲峡で出会っている。
 入場料500円なので中には入らなかったが、かつての客室はレストランやら宴会場として利用されていて、デッキはビアガーデンになっている。もう機関を動かすことはないので、電力供給用の太い電線をつながれた姿は哀れというほかない。もっとも、解体されスクラップになるよりはずっとましで、保存を決定したことには感謝している。
 北海道に渡ろうかとも思ったが、フェリーに乗るということは、もう一度乗らなければならないわけで、片道1万円になすすべもなく敗退した。

 市街地を抜けると何もないので、食事と買出しを済ませ、酸ヶ湯(すかゆ)温泉へと向かう。9時まで大丈夫ということなので温泉につかり、車の中で寝る。かなり風が強く、気温は低い。10度くらいではないだろうか。
 天の川が見えるが、予報はいまひとつ。明日は八甲田山に登るのだ。

八甲田山
八甲田山
9月5日

 5時半頃に起き、昨日コンビニで買ったサンドイッチの朝食を済ませる。雲が多くあいかわらずの強い風だが、好転することを期待して登り始める。
 1時間半ほどで仙人岱という湿原に到着。そこから45分で八甲田大岳山頂だ。
 八甲田山は複数のピークからなる山郡の総称で、一番高いのがここ大岳、1585M。山頂には3人ほどいた。ものすごい強風で、立っているのもままならず、地面に置いたザックもズルズルと動き出す始末。おまけに寒く、手が凍える。しかし予想以上の眺望があり、下北、津軽両半島がくっきりと見え、地図のとおりの地形が目の前に広がる。となりの岩木山もこっちに来いと誘っているようだ。西、南側は雲海の上にいくつもの山が頭を出している。
 山頂を後にして避難小屋まで下るとウソのように静か。そこから20分ほど登り返して、井戸岳に到着。 直線で1キロと離れていないのに、こちらは風がだいぶ弱い。雲がほとんどなくなった中、爆発にかろうじて残った火口壁の上を歩き、赤倉岳から、上、下毛無岱を経て大岳から3時間半ほどで酸ヶ湯にもどり、再び温泉につかる。
 風は強かったものの、十分な眺望を得ることができ、満足のいくものだった。

岩木山
岩木山

 一っ風呂浴びた後、弘前を経て岩木山に向かう。
 岩木町に入ってからの沿道には立派な松並木が続き、遊歩道も整備された気持ちのいい道になる。こういったところに、その地域の“品”が出ると思う。
 風が心配なので、岩木スカイラインの料金所で山頂のリフトが動いているかを確認してクルマを進める。係員はとても丁寧に応対してくれた。往復で道路が1780円、リフトは750円だ。
 リフトの上りは16時まで、16時半には止まる。もうすぐ15時なので、リフトを降りた後、いつもより速いペースで頂上を目指す。何の事はない、20分もしないで山頂に着いた。
 八甲田とは打って変わって無風状態。すぐそこに見えているのに、全く不思議。雲は少なく、足元に広がる津軽平野、日本海、岩手山あたりまで見ることができた。鳥海山を望めなかったことが唯一の心残りではある。
 下山後振り返ると、山頂は雲に隠れた。

 本当は鰺ヶ沢から日本海沿いに南下したかったのだが、日が暮れ景色を楽しめないのは目に見えていたので、仕方なく国道7号を行くことにする。碇ヶ関道の駅では、今回初めて稲の香りがした。ラジオは早場米の出荷が始まったことを伝えている。
 東北の幹線国道では、うっかりすると有料のバイパスに入ってしまう。気を付けていればそうはならないのだが、人をだましてまで金が欲しいのかとも思ってしまう。標識の色が違うだけで、目立つように「有料」とは、脇にそれる道が無くなるまで、つまり料金所直前まで表示されてはいない。料金が明示されていれば、安ければ利用したのに。多分安くは無いのだろうが。
 大館のマックでは、店員が俺だけではなく、地元の客に対しても標準語で対応していたのが笑えた。
 その後秋田で7号から13号へと乗り換え、大曲、横手を抜け、今夜は増田町役場の駐車場で寝る。

川原毛温泉
川原毛温泉
9月6日

 今日は栗駒山の予定だが、天気がよくない。須川温泉の駐車場で天候待ちをしているあいだに、又眠ってしまう。
 2時間後に起きたが、天気はあいかわらず。深い霧にルートを見失うのが怖いので、あきらめて川原毛温泉の湯の滝に向かう。

 ここの湯の滝は、ほとんど人の手が加えられていない自然のままの温泉で、北海道あたりにあるものよりもずっといい。以前にも来たことがあるが、ほとんど変わっていないことがうれしかった。
 少しぬるめだが、ここより上流では熱すぎて入ることはできない。湯の滝は2段になっていて、上の滝壷にもいける。高低差が大きく、湯量も豊富なので、滝に打たれるなんてことはとてもできそうに無い。
 しかし、世の中変わったのか、女性が水着を着て入るのは理解できるが、男が、それもいい年をした、50代と思われる者達が水着を着て入ったのには驚かされた。
 実はここでツルっとした岩の斜面で転び、お尻をすりむいてしまった。かさぶたがパンツに張り付くので、トイレやお風呂でパンツを脱ぐのに3分はかかるという、トホホ状態になってしまった。

 ゆったりと温泉につかった後、再び13号を南下する。お昼のおべんとを買った尾花沢市のコンビニの斎藤さん、あなたが今回のナンバー1です。

お釜
お釜

 山形あたりで西方を見て月山もあきらめた。下界はいい天気だが、標高1000Mを超えるあたりから上は雲の中だ。東側ならもしかして、と思い蔵王へ行くが、うっすらとお釜が見える程度だった。
 南陽市で危うく有料のバイパスに入るところだったが、13号をさらに南へ向かい、米沢を通過する。

 米沢から会津にかけて、「草木塔」というのがある。人間が生活するうえで利用した植物を慰霊するために古くから建てられたものだが、動物や人間を祭るものは各地にいくらでもあるが、植物を祭るものは初めて知った。このあたりの人の、生命に対する考えといったものがうかがえる。
 今夜は米沢の道の駅田沢で眠る。明日は喜多方でラーメンでも食べて天候の回復を待とう。

9月7日

 大峠を越えて熱塩加納村(あつしおかのうむら)に入る。なんかこの村名好きなんだなぁ。
 喜多方市内に入り、とりあえずは喜多方ラーメンを食べに「食堂はせがわ」をさがす。ここは老麺会には入っていないインディーズ系なので、観光案内所でもらえるマップには載っていないのだ。ちょっと変わった親父がやっていて、かつおだしがきいたスープ。
 次に行ったのが「なまえ食堂」。あっさりとしたスープに太目の麺で、俺としてはこっちのほうが好きかな。ご馳走様でした。両店とも評判どうりのおいしさでした。
 時間もあるので、以前行ったことがある、レンガ作りの蔵があるところへ行く。観光バスが何台も入る駐車場が、その変貌を教えてくれた。近所でアイスクリームを買ったのだが、これが大正解で、その店の老人が面白い話を聞かせてくれた。

 実に惜しいことに、通行止めになってしまった旧道の大峠についての話。
 当時の三島某という知事のもと、この道が作られたのが明治のはじめ頃で、当時としては国内最高水準の道路であったらしい。そして建設には多くの地元住民がかり出されたのだが、どうもその労働条件がかなりひどいものだったらしく不満がつのり、集団で警察署を襲撃する事件が起きた。
 さすがは会津人だ。しかし所変わればなんとやらで、山形側では三島某は評判がいいらしい。

 面白い話を聞いた後、近所にあるかつてのレンガ工場や、廃校となった木造二階建ての校舎や、田んぼの中の小さな神社などを見て、桧枝岐(ひのえまた)へと向かう。
 最初は御池(みいけ)まで行くつもりだったが、天気次第では登山をあきらめて帰ることにしたので、今夜は手前の会津田島の道の駅で眠ることにした。標高744M。月が出ているので、多少は期待できそうだ。こんなところでYMOの「君に胸キュン」や、「すみれセプテンバーラブ」が聴けるとは。あしたは燧ケ岳(ひうちがたけ)に登れるだろうか。

燧ケ岳
燧ケ岳(ひうちがたけ)
9月8日

 濃霧の朝だが、霧の向こうにうっすらと青空が透けて見えるので、とりあえずは御池まで移動することにした。桧枝岐をすぎ、御池に着く頃にはさらに天候は回復し、登山意欲も出てきた。
 御池駐車場は1回1000円。以前は無料で、さらにこの先の沼山峠まで行くことができたが、現在は許可車と自転車しか行けない。規制が無かった頃、自転車で沼山峠まで行き(もちろん自宅から)、そこから歩いて尾瀬に入り、テントで5日くらい滞在したことがある。それくらい時間を使うと尾瀬を十分楽しむことができるし、時間をかけるだけの価値がある。

 さて、今回は燧ケ岳登山が目的なので、駐車場の奥の登山口から登り始める。
 うわさどおりのぬかるんだ登山道が続く。防水性の高い靴を履いたほうがいい。でも、この水分が多い環境が、このあたりの植生を特徴付けているのだ。
 途中、盛岡から来た、塩釜で金融関係の仕事をしている、佐々木さんと一緒になり、何とはなしに行動をともにするようになる。二人でしゃべりながら、二つの湿原をすぎ、りんどうの花を見ながら、約4時間後に山頂に到着。

燧ケ岳中腹より
燧ケ岳中腹より

 尾瀬ヶ原と尾瀬沼を足元に見下ろし、遠くは日光白根山や、会津駒ケ岳を望むことができた。山頂でいつもの昼食を食べている時、他の登山者からバスダイアを教えてもらい時間に余裕があることがわかったので、帰りは長英新道を下り尾瀬沼のほとりに出てから、沼山峠経由で帰ることにした。
 この山の登山道も、今のうちに整備しないと、ちょっとやばそうだ。
 下り初めてすぐに樹林帯に入る。関東ではお目にかかれない、ぶなやとどまつが多い。
 やがて道が平坦になり、樹林帯歩きにも飽きた頃、ビジターセンターや小屋が見えてくる。ここにくるのは10年ぶり3回目。山頂より1時間半。立派なとりかぶとが、まるで誘惑するように、あちこちで咲き誇っている。沢には40センチはありそうな岩魚が泳いでいる。少し建物が増えた気がする。
 遅ればせながら汚水浄化槽ができていた。電力の確保や低温など、浄化槽にとっては厳しい条件だがやればできるのだ。ここに限らず、今まではやる気が無かったとしか思えない。
 無料休憩所と売店は、本日は13時半に終了。あいかわらず商売上手だ。
 しばし休憩の語、1時間弱で沼山峠着。15時半のバスにギリギリ間に合い、20分ほどで御池の駐車場にもどった。大江川湿原には、わずかにきすげが残っていた。

 下山後桧枝岐にもどり、温泉につかる。パンツを脱ぐのに3分を要した。恐る恐るゆっくりと脱ぐ様は、我ながら情けねェーー。
 東北の山は必ずといっていいほど温泉がある。
 ゆったりつかった後、食事をとる。6時過ぎにはほとんど閉店してしまうので、急いだほうがいい。名物のそばを食べる。確かにうまいが、盛そばで800円ならこのくらいうまくなくては困るというもの。ゆうべ食べたカツどんや、喜多方ラーメンのほうがコストパーフォーマンスは上だ。
 ここ燧の湯駐車場では、虫の声とせせらぎの音しか聞こえない。

中門岳
中門(ちゅうもん)岳
9月9日

 昨夜はものすごい雷雨が断続的に続いた。山間部の雷はすごい。クルマがゆれ、からだにも振動が伝わってくる。
 今日はきのう燧ケ岳山頂から眺めた、会津駒ケ岳に登るのだ。
 温泉の駐車場から登山口の駐車場に移動するが、天気はイマイチ。ま、昼頃には少しは回復するだろうことを期待して、登ることにした。

 30分ほど車道を歩いた後、本格的な登りが始まる。いきなりの急登。
 1時間40分でほぼ中間点の水場に到着。上に行くほど傾斜はゆるくなる。
 そこから2時間弱で山頂着。あやめかかきつばたらしい花が咲いていた。いい年こいて木道をはずれて湿原に降り、写真を撮る人が本当にいるんだねェ。
 山頂は木立に囲まれて何も見えない。そこにいた、登山用具関連の仕事をしている人から、「駒ヶ岳の山頂に行かなくても、この先の中門岳にはいったほがいい」と聞き、予定を変更して中門岳に行き、そこでお昼にすることにした。
 中門岳への道は、話のとおり素晴らしい眺め。起伏の少ない稜線上の道に湿原が続き、両側とも景色がいい。確かに駒ケ岳山頂など、どーでも良くなるくらいの素晴らしさだ。
 40分ほど歩いたところにある、大きな池のほとりのベンチで昼食にする。カップ麺とコーヒーのワンパターンのお昼だが、先客の、地元会津の二人連れの女性から次々といろんなものをいただき、非常に豪勢なものとなった。ご飯、漬物、ウインナ、卵焼き、りんご、とうもろこし、まるでドラェ門のポケットみたいだった。

 楽しいお昼の後、約2時間半で駐車場にもどれた。
 スローもションでパンツを脱ぎ、再び桧枝岐の温泉につかり、今回の山登りシリーズは終わった。
 やっぱり東北は、いいなぁ。

 

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